ポスト・グローバル秩序のパラドックス 攻守が入れ替わる米中関係
近年に至るまで、国際社会のルールを規定してきたのは、紛れもなく米国だった。民主主義や人権といった価値を旗印に、ドルを世界経済の心臓部とした「パックス・アメリカーナ」は、単なる一国の優位性を超え、グローバル社会のデファクトスタンダードとして定着した。そして、2000年代以降、急成長する中国や失地回復を企図するロシアが台頭すると、米国はこれらを「リビジョニスト(現状打破勢力)」と糾弾。自らを既存秩序の番人、すなわち「現状維持勢力」として位置づけることで、自国の優越性を正当化してきた。
しかし、現在の世界を見渡せば、そこには極めて皮肉な役割の逆転現象が見える。かつて秩序を設計した当の米国が、自ら設けた枠組みを内側から引き裂く「破壊者」へと転じ、一方で秩序への挑戦者だったはずの中国が、既存制度の熱烈な支持者を装うという奇妙な構図である。
この変質を招いたのは、米国内の政治的な動きだ。米国第一主義の台頭により、多国間協調は米国の国益を削る重荷と見なされるようになった。かつて自由貿易を牽引した国が、今や関税を盾に保護主義を強め、環境協定や国際機関から背を向ける姿は、世界から見ればルールを恣意的に解体する現状打破国のように映る。現在のワシントンを突き動かしているのは、秩序の守護ではなく、自利のために秩序を組み替え、あるいは無効化しようとする衝動に他ならない。
一方、北京の振る舞いは計算され尽くしている。米国が国際舞台から引き下がる空白を突くように、習近平政権は「自由貿易の守り手」という新たな仮面を被った。国際会議の場で中国はグローバリゼーションの価値を語り、多国間主義を称賛してみせる。独自の巨大経済圏構想を進めつつも、対外的には「国連主導の国際秩序を尊重する」という姿勢を崩さない。ルールを反故にする米国に対し、そのルールを巧妙に活用してリーダーシップを演出する中国。この逆説的な光景は、今や見慣れたものとなった。
無論、この入れ替わりは多分に政治的なポーズを含んでいる。中国の言う「現状維持」は、自国の強権的な体制への干渉を阻み、既存システムの脆弱性を突いて影響力を拡大させるための防備に過ぎない。また、米国の「現状打破」も、既存の枠組みがもはや現実の国力バランスに適合しなくなっていることへの苛立ちの表れでもある。
だが、この「主客転倒」が国際社会に植え付けた心理的ダメージは計り知れない。本来の安定勢力が不確実な攪乱要因と化し、野心的な挑戦者が秩序の安定を説くという事態は、1つにグローバルサウス諸国に深刻な迷いを与えている。理想を捨てた米国と、実利を掲げて番人を演じる中国。この逆転が常態化する中、世界は明確な規範を喪失し、力とプロパガンダが支配する霧の深い時代へと足を踏み入れている。
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